大熊ワタル気まぐれ日記:2007-05-09


2007年05月09日(水)★「地中海音楽の磁場・ナポリの音楽シーンに注目!」

当世音楽解体新書(planB通信 07年5月号)より
 
 古代ギリシャ文明も、本来地中海というアフリカと向き合った、フェニキア、エジプトなどの複数的文明だったはずなのに、ヨーロッパ中心の視点で、書き換えられてきたのではないか…。そのような指摘が、話題となっているようだ。
(マーティン・バナール『黒いアテナ/古典文明のアフロ・アジア的ルーツ』第一巻「古代ギリシアの捏造」)
 そう、ヨーロッパとアフリカの間に横たわる地中海は、かつて詩人ランボーも歌ったように、さまざまな原色を、そこに見出すことが出来る。

 そして、いよいよ今月末、その地中海に突き出した南イタリアから、ナポリの誇る鬼才ダニエレ・セーペがやって来る!(25日「地中海音楽の夕べ」@イタリア文化会館)

 といっても、日本では、まだ知る人ぞ知る存在だろうが、これは事件といってよいだろう。

 1960年、ナポリ生まれ。サックス奏者・作曲家。南イタリアのルーツ音楽(タランテッラ、タムリアータなど独自の民俗音楽で知られる)をバックボーンとしながら、ロック、ジャズ、レゲエなどが、自由自在にチャンポンされた、ポップで猥雑なカーニヴァル的音楽世界。セーペの音楽の特徴は、ただ楽しげなだけでなく、「何でもあり」の雑食的世界でありながら、挑発、批評性、ユーモア、皮肉などが必ず中心にある点だ。ビクトル・ハラや、ブレヒト・ソングなどが参照されたり、それらを換骨奪胎したような対抗文化的視点が、強烈なスパイスを効かせている。90年頃より、ほぼ毎年のように力作を発表、その怪物的な創作力も特筆ものだが、とくに98年の「限界労働(lavorare stanca)」、2003年の「アニメ・カンディード(率直な魂)」などは、比類のない傑作トータルアルバムで必聴だ。

 今回の来日は、クインテット編成で、アルバムでの批評性、トータル性といった点がどこまで表現されるのか、未知数だが、ともかく、セーペの実演に触れることが出来るという、実に楽しみな事件だ。

 そこで、この際、セーペ来日に歓迎の意を表して、徹底的にセーペとナポリ周辺の音楽を聴き倒そう!そして、セーペ(たち)を生んだ南イタリアの音楽シーンを調べてみよう!そんな企画を立ててみた。

 第一弾は、5月13日(日)、「『音の力』プレゼンツ闘走的音楽案内vol.1  Cutup労働歌!?」と称して、新宿百人町NAKED LOFTで行われるDJトーク・イベントのひとコマで、まずは一席(第二部 レイバーソングDJ「移民、多文化、周縁」)。 この日は、小一時間という持ち時間なので、セーペとその周辺の音源、そして南イタリアのシーンの立ち位置をめぐって、まずは軽くジャブ。ゲストは、比較音楽学の若き研究者・阿部万里江さんで、後述のチャールズ・フェリス氏のお仲間(ともにカリフォルニア大学バークレー校・音楽文化学)。

 そして第二弾は、26日(土)、planBにて、ナポリ・シーンの特集。題して「ダニエレ・セーペ来日記念 DJ&トーク 地中海音楽の断層・南イタリア音楽シーンの磁場を聴く」
 報告をお願いするチャールズ・フェリス氏は、ダニエレとその周辺の音楽事情を、長期リサーチ中の若き研究者(自身ミュージシャンでもある)。ちょうどダニエレと共に来日するという好機をとらえ、ナポリ音楽シーンの最前線を紹介してもらう。
 セーペだけでなく、彼の僚友で、北アフリカからの移民でもある音楽仲間や、セーペが10代後半に音楽活動を始めるきっかけとなった、労働者音楽グループ「e zezi」についてなど、ナポリ周辺の豊穣な音楽的磁場を、多角的、立体的に、聴き、眺め、そして語り合おうという魂胆だ。

 イタリアの南北問題、そして、ヨーロッパとアフリカという大きな南北問題という歴史的文脈、そして最近のグローバル経済・政治との関連などが、ナポリタン音楽料理の、さしあたりの入口となるだろう。「われわれ」自身の音楽事情を、あらためて見直す上でも、間違いなく刺激的な視点となるはずだ。
 すくなくとも、チャールズの話は、本邦初公開! ぴちぴちのとれとれだよ〜。さあさあ、いらはい、いらはい!

 さらに、夜の部・映画「山谷(ヤマ)〜やられたらやりかえせ」上映会ともリンクし、上映後に、ナポリ・東京、双方の状況を背景にした、刺激的なクロストークが決定!!(ゲスト・平井玄) 乞うご期待!

[link:37] 2007年05月09日(水) 04:07