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●追悼・法政大学学生会館(1973〜2004) 大熊ワタル

自主管理のもと、意欲的な公開企画などで、西の西部講堂・東の学館と、並び称されてきた法政大学学生会館が、昨年末からついに解体作業に入った。

学館解体の様子

突如、無期限閉鎖、そして解体へ、と事態が動いたのは昨年4月のこと。2002年から学館や体育館でボヤが続いたため、学校当局が防災体制の見直しと、夜間閉鎖(当初からの原則だったが事実上24時間自主管理状態が続いていた)の厳守などを打ち出し、学生側と「利用の正常化」への詰めに入っていたのだが、そこにまたあらたなボヤが発生した。
(直後に学校が出した告知によれば、このボヤは「テレビの電源コードの老朽化または同プラグに付着した綿ゴミが原因となって漏電を起こし、出火にいたった可能性」が高いが、「不審者による放火の疑い」も残り、今後も事情聴取を続けるとある。)

3年間で4度目(学館では3度目)のボヤに業を煮やした消防の緊急査察が入り、タコ足配線、タバコの吸殻・酒の空き瓶などの放置、寝具、煮炊き道具の類いなどが露見。消防から「学生の自主管理の名を借りた安易な管理体制はもう許されない」との警告が出され、また使用停止を含む行政処分も予想された。このため、学校当局は4月末に無期限閉鎖、そして7月に新施設建設を打ち出した、というわけだ。

ま、立ち退きにボヤはつき物というし、不審な要素も残るが、じっさい学生の管理というか使用状況もずさんだったのだろう。だけどちょっと待てよ? わずか3ヶ月で、半年後の新施設建設を打ち出すなんぞ、大学側も随分、手際良すぎないか。だいたい、それなりの大事業であれば、予算組みとか、何だかんだと段取りが大変じゃないの?
そこで、関係サイトに挙げられた説明会議事録(7月)を見ると、学生部長の説明で以下のようなくだりが目に付く。

「ご存知の通り現在高齢化や少子化が進む中で、やはり大学の生き残りをかけるためには、新複合施設の建設による教育環境と学生サービス環境の改善・充実が不可欠でございまして、もともと手狭で貧弱なキャンパスをやはりより有効な方法で再開発する必要があると考えたわけです。」

「生き残りのための施策」を、ボヤのあと、あわてて考えたわけでもないだろう。今後の学生数の減少をにらんだ中長期的な計画の一環とみるのが相当ではないか。

また学校側は事の正当化の担保として、アンケートの結果、学館利用者が学生の2割程度でしかないことも挙げている。たしかに「残りの八割の方を踏まえた上で」の「政策的な選択」といわれれば学生も反論しにくいだろうが、では、その8割は新施設とイコールなのかといえば、そういうわけでもないだろう。巧妙なレトリックだ。

以上から見えてくるのは、ボヤのあるなしに関わらず、学館は早々に取り壊すつもりだったであろうこと。そして「自主管理」は学生側の失点もあり、学館とともに葬り去られようとしている。もともと学館の自主管理というのは建設(73年)の随分以前から学校側との攻防があった末、学生の実力入館で勝ち取られたという経緯があるそうだが、30年が経ち、その理念も建物とともに消え去ってしまうのだろうか。

すくなくとも外野席から見る限り、抗う声は少数で、学館にかかわる学生ですら、多くは事態を見守るのみ。一般学生にいたっては、何の感想もないか、あるいは汚い?怖い?学館がなくなって喜んでいるのかもしれない。

自分は、ホールのたんなる出演者にすぎないし、学内事情には、はっきり言って特別の興味もない。しかし、少なくとも80年頃から、ほかでは見られない、学館ならではの公開ライブ・企画が数多く打たれてきたことを知っている(*)。

(*)音楽関係では学内企画団体ROCKS→OFFによる幾多のカンパ制コンサートが記憶に残るだろう。とくに草創・生成期のパンク・ニューウェイブバンド、それも東京にかぎらず関西などから数々の話題のバンドが登場し、シーンの撹拌に貢献大だった。またフレッド・フリスやジョン・ゾーンなどの大立者からコアな部分まで、国内外の前衛的音楽の紹介の場として、営利的なライブハウスではありえない役割を発揮したことも大きかった。

自分も少なくとも2回、決定的な影響を受けたライブに立ち会っているし、そればかりか、何度もホールの舞台に立たせてもらった。とりわけ最終の学館オールナイトコンサートに呼んでもらい、ホールに別れの挨拶ができたのは忘れられない記憶になるだろう。

ホールには、そして舞台には精霊のようなものが住みつくものだ。その精霊に言葉があったら、何を今、語ってくれるだろうか? 大事に使えば、まだいくらでも持ったはずなのに。

最後にもうひとつ。30年間の開かれた場としての記憶・記録はどう総括され、共有されていくのか、いかないのか。学館で、面白いことやってきた代々の連中から、今のところ、何も聞こえてこないのはあまりにさびしいことではないだろうか。出演者や観客からしか声があがらないってどういうことだ? それでいいのか?

学館が泣いてるよ!

まさにホール空間の無残な姿が・・・(1/22)
写真:まさにホール空間の無残な姿が・・・

(2005/1/22 大熊ワタル/OHKUMA Wataru)


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